仕事が済んでホテルへの帰り道。遠回りして帰ろと、なんば南海駅へ向って地下道を進むと両手をポケットに突っ込んだ年配の男が一人、何事かを口ずさみながら目の前を歩いてゆく。所謂呟きオヤジ。
こっちも両耳をグルリ回転させて、呟きを聞いてやろうと彼の前面に回り込んだ。
「15日やな、×△□。カミさんの○×◇やな、×△□。ホッ、ホッ、ホッ」
結局、彼が何を呟いていたのかはよく分からなかった。しかし、新宿辺りを徘徊している呟きオヤジとは明らかに違う。ななんだか幸せそうだ。少なくとも彼は、政権への悪口や若もんへの嫉妬や生活苦を吐き出すだけの厭世論者ではない。なんてったって、「カミさん」の後で、ホッ、ホッ、ホッだもの。周囲が嫌悪する理由はないし、事実私は少しだけ癒されもした。ふと、ローマの下町を思い出したりもした。
ゆかりという名のお好み焼き屋へ入った。何故だろう、どうしてもホテルへ辿り着く前に何処かへ立ち寄りたくなったのだ。ミックス焼きが1050円は、安いのかどうか分からない。しかし、ホテルはもう目の前。周囲は吉牛と回転寿し。選択の余地はなかった。
かつて四ツ谷のキングと呼ばれたバーテンが二十歳の頃はきっとこうだったに違いないという風貌の男の子が、キングとは正反対のテキパキとした客捌きを見せている。お好み焼きは柔らかすぎる気がした。
明日、仕事が済んだら梅田の地下街にある串焼き屋へ寄ろう。今年二月に立ち寄った時に、「ワタシ、大連帰りたいよ」と寂しそうな顔を見せた彼女はまだいるだろうか。揚げすぎた串を突き出し、キスは好きかと愛想なく勧めてきた。嫌いじゃないさ、勿論。ただ最近は遠ざかっているんだが。
「大阪でいいところ、大連よりあったかいところよ。それだけよ」そう言って少し眉間に皺を寄せていた。
いや、それだけでいいじゃないか。東京に比べたら、ここは何もかもずっとあったかいよ。そう言う代わりに、もう一杯の麦酒をのんだっけ。
1 件のコメント:
大阪で〜うまれた〜女や〜さかい〜〜
が聞こえてきそうです。
いいなあ大阪。
人との出会いひとつとっても濃ゆくて魅かれます。
関西の気質は外国っぽいですよね。
確かに。エスカレーターも右側だし。
キングの現在の仕事ぶりがとても気になる今日この頃。
日本に行った際は次こそ訪ねたい店であります。
コメントを投稿