19日夕暮れどき。仕事を片付け三ノ宮へ戻ると、明石焼のたちばなへ向かった。これも恒例となった。これまでは、賑やかな街並みとどこか余裕のある人々に触れたくて、散歩がてら元町の店まで足を伸ばしていた。疲れが癒される。今日は五時間に及ぶ移動のため、流石にその気力さえ失せてしまった。駅の目の前、阪神ビルの地下一階にある支店にやってきた。
神戸在住の知人に教えてもらってからだから、はや五年になる。年に一度か二度の客でしかないのだが、こちらはすっかり常連の気でいる。焼きのオバチャンから掛かる「一枚ですか?」の声に、ひょいと人差し指をたてただけで返したりする。その気になっている。
この店を紹介してくれた知人がいうには、「明石焼はオヤツ。ご飯はまたべつです」 大振りのフワフワの明石焼きが10個。しかも、この時刻(五時過ぎ)のものとしては、少々多すぎはしはいか。隣のテーブルに着いた女性二人はペチャクチャと四方山話に花を咲かせながら、ひとつまたひとつと口に放り込んでいる。所謂別腹なのだ。
ところで中年オヤジがこんな場所に一人というのも、と思う間もなくもう一人更なるオヤジが目の前のテーブルについた。ガタイもよろしく、私などよりよほどこの場に似つかわしくない。焼きのオバチャンの声に、やはり頷くだけで答えた。彼も常連なのだ。
オヤジ二人のテーブルを挟むように先ほどの女性達と奥のカップルの話が盛り上がり、負けじと焼きのオバチャンは板さん風の男性相手に携帯電話の話が止まらない。
「184(いやよ)て、頭に付ければ相手に番号はみえへんから」
「いやよってか」
「そう、いやよ」
「なんか、怖いわ」
オヤジ二人は黙黙と明石焼を口にはこぶ。ハフハフしながら、黙って食べる。我々べつに怖い人ではないのだけれど、何故か眉間に皺を寄せ、伏せ目がちの姿勢を保って浮気調査の探偵よろしく食べ続ける。彼の関心事は何だろう。こっちは夕飯の事が頭を過ぎり出した。神戸の街がとっぷりと闇に包まれた。
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