次男の「音楽発表会」なるものが保育園で催された。三十人弱の六歳児が、歌たったり楽器を奏でたりの三十分。二つ目の演目で八人の一人に選ばれた次男は「ラ」のベルを片手に、自信満々で五六度右手を振った。何度か順番を忘れた「レ」と「ファ」の愛嬌で、妙に間延びした短い曲をなんとかこなし終えた八人に、集った親たちが割れんばかりの拍手を送る。さすが二人目の子ともなると、このレベルでは動じない。
最後の演目では園児全員が、「ありがとう」連発の歌を唄った。広間に並べられた園児用の小さな椅子に腰掛けた母親達の大半が、ハンカチで目頭を拭っている。演じている子ども達の「さっさと終えて、早く遊びたい」気持ちとは裏腹に、これでもかと畳込められた親たちの感情は最高潮に達している。しかし、このレベルも既に経験済みだ。動じる事はない。
予定の半分の時間で会は終了し、子も親も感動の箱庭から解放された。仕事に戻った。途中息切れし仕事机に突っ伏した小一時間を除けば、この日も残り数十分というところまで働き続けた。午前中に体験した非日常もすっかり脳裏から消え去っており、ビールを片手に夜のニュースで今日を締めくくろうとTVのスイッチを入れた途端だ。
~時を超えて君を愛せるか、本当に君を守れるか~
~君のために今何ができるか~
アラフィーに対する反則技は見事急所を突いた。長男の出産に始まり、次男、三男の成長の記憶がこの15秒間に蘇り、今朝目にした次男が「ラ」を振る姿までが目蓋に浮かび上がる。涙腺の制御は不能となり、頬伝う滴は止めどもなく。グラスを傾けるのと空いた手で頬を拭うのを繰り返す。小田一正なんて、ダセーヨ。もう、声にもなっていない。
1 件のコメント:
>次男が「ラ」を振る姿
かわいいですね!!
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