「エーベーか(欧米か)」二歳半になる三男坊の近ごろお気に入りのフレーズだ。叱りつけると睨み付けるようにこの言葉を返してくる。「それは、オマエだろうが」とこちらも返してやる。互いに意味は通じていないが何となく納得する。
朝の新幹線で仙台へ向かった。車中でチェックしたメールに友人の米国人からのものがまぎれていた。1ヵ月前から仕事のため仙台に滞在しているはず。久しぶりに顔を合わせてみるのもよいだろう。そんなことを思いながら読み進めば、「フロリダから」とある。どうやら仕事を辞めて帰国したやうだ。「自身の選択ではなかったが」と続けられていた。
「仕事はお金のため。日本が好きなんだ」と口にしていた彼。その日本を諦めるどんな理由があったというのだろう。
「仙台には温泉はあるか?」と大の温泉好きに問われ、仙台の三大温泉地を地図にして手渡した。「これは問題にはならないか?」と背中いっぱいに彫り込まれた世界地図を指差す。ならばと「怪しい者ではない。日本文化をアピールするためにも、是非温泉に浸からせてやってほしい」と宿主に手紙を認めて持たせた。1ヵ月ほど前のことだ。
五月に入ってすぐ、仙台に移動した彼にメールを送った。「牛タンは美味いか?温泉は楽しんだか?」今日のメールはそれに対する返信だった。以前は間髪をおかず返信してくれていた。音沙汰のないのは無事の証拠というが、この間如何程のことが降り掛かったというのだろうか。
「負けるが勝ち」という言葉を教えたことがある。片方の眉をぴょんと持ち上げ、大変に興味深いと頷いていた。「しかし、私はアメリカ人。私の方法でいってもいいか?」と、絡んできた酔っ払いの腕をへし折っていた。
「AKIYUという処で温泉を楽しんだ」と事の経緯には一切触れないところは、さすがに欧米か。続けてあった「プライベートな風呂だったので、あの手紙を使う必要はなかった」という一文に、露天で一人湯槽に浸かり物思いに耽る彼の姿を思い浮べ哀愁を感じるのは「ニッポン」だからか。
長町という本来彼が務めているはずの駅に降り立つと、線路の高架脇の広大な敷地のなかに、ビッグハットと呼ばれるシルクドソレイユの巨大なテントが少し萎んだようにたたずんでいた。
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