男と女が乗り込んできて目の前に立った。文庫本に目を落としていた視界に入ってきたのはまず女の足で、彼女の右足はその位置に着いた途端に靴を脱いだ。
二人とも両手でつり革にぶら下がるほど酔ってはいるのだが、男の言葉ははっきりしており、いや語尾に力をという意志が感じられ、一方女はと言えば脱いだ靴を踏み潰して頑張った右足で体重を支え、踵が外れかかった左足の踝は異常なほどに折れ曲がり、しかも電車の揺れに合わせてクネクネ踊り続けている。
左隣の女は俯いたまま何かに怯えるように体をビクつかせ、正面に深く座り込んだ女に至っては、もう膝を閉じる事さえできない。
丸ノ内線、終電一本前のありふれた風景ではある。
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