三男坊の靴下の踵が擦り切れて穴があいていたことがあった。上二人のお下がりだから通常の二倍か三倍履き古されていては穴もあくだろうと納得しながら、なんだか不憫に思われた。かといってお父さんは、自ら新しい靴下を探してやろうなどと思わない。男は中身なんだとお父さんは信じている。三男坊はパンツまでもゴムが伸びきっている。
正直、子供の下着や靴下がどこで買えるかなど知らないし、これまで友人や知人に「お子さんの靴下はいつも何処で買ってます?」なんて尋ねたこともない。勿論、訊かれたこともない。そのくせ新宿に降りる度、ビクトリアに立ち寄っては子供用のスポーツ用具を眺めていたりする。親子グローブセットを見つけた時には、迷わず買った。「どうしたの、突然」と、母親は当然訝しがる。下着や靴下は買ってきたこともないくせにと思っているかどうかは知らないが、下着や靴下に比べたらはるかに値が張る。のか? パンツや靴下については値段も知らない。
果たしてお父さんはそれらに本当に無関心なのか?
先日、「パンツに穴が空いてても見えなきゃ気にしない」と冗談のつもりで言ったら、風呂場で脱ぎ捨てたパンツには本当に穴が空いていたので驚いた。しかし、そのパンツを棄てたかどうか覚えていない。今日は今日で、靴下のつま先が薄くなって地肌が見えそうになっていることに気がついた。そういえば洗濯の時、既に発見してたのだ。しかたがないので別のものに履き替えると、そちらも全く同じ場所が薄くなっていた。
知人二人と吞みに出かけた時、そこには小洒落た板敷きの掘りごたつが据えてあり三人とも「いいねえ」なんていいながら仕切りの部屋に通された。疲れた足を革靴から解放し、おまけにネクタイまで緩めて燗の酒を舐め舐め白いものが増えた互いの頭の話なんかで盛り上がっていた。やおら一人が片足を膝に載せると、もう一人が息を合わせるように反対側の足を放り出した。視界に入った二人のつま先が同じように薄くなっていた。
とにかく、お父さんは下着や靴下に無頓着だ。理由はない。しかし、子供達がサッカーボールを泥んこのまま放ったらかしていたら叱る。けっこう叱る。「ボールを作っている人は、一生懸命作っている。お前達に楽しく遊んでもらおうと思って心を込めて作っている。だから、遊ばせてくれてありがとうって、いつもきれいにしろ」二度と買ってやらないと脅したりもする。
別に、靴下やパンツを蔑ろにしているわけじゃない。ましてやその中身を放ったらかしでよいとは思っていない。もう子供に自慢するほど光り輝くボールでなくなっていても、100円ショップの歌舞伎揚げの横に吊されている代物なんかじゃなくて、もう少し気の利いたボール袋に包んでやるからなって思ったりする。今は力のなくなったこのバットだって、昔は四割の打率だったんだなんて思い出したりもする。
勝負下着なんて考えもしなかった時代に青春時代を過ごしてしまった俺らは、脱がせた下着のことなど覚えていない。無駄な時間はすっ飛ばして、さっさと稲妻シュートを決めたかった。しかし、今の持ち玉は変化球。緩急なんてつけられないからひたすら変化球。クリスチャンロナウドの無回転ボールなんて夢のまた夢。コロコロシュートが関の山。やっぱり色気のあるパンツの一枚も履いて、まずは目くらましから始めなければだめかしらん。とはいえ、今更パンツを吟味するなんて。
待てよ、・・・。
若い女のケツばっかり追いかけている彼奴は、ひょっとしたら勝負下着の二枚や三枚もっていたりするのかしらん。ずらっと並んだカラフルなパンツ売り場で、「今夜はこいつでキメテやるか」なんて、腕組みしてたりするのかい。
フン、男はやっぱり中身だ。お父さんだって決めてやる。
コロコロ~ッ、シュート。
1 件のコメント:
んもぅ。
会社で読んでいたのに、思わず吹き出しちゃいました。
おもしろすぎます!
勝負下着、いいじゃないですか。
次のアラフィーくらぶの議題ということで(笑)
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